1:「マノノ島の椰子の実〜サモア旅行の簡単な報告〜」 (2001.9)

  ここ数年は、春から夏にかけての1ヶ月ないし2ヶ月、撮影旅行にでかけています。「人間遺産」のコーナーの写真のようなモンゴル系の人の顔を撮るのが主な目的です。その一連の仕事のなかで、ことしはハワイ・サモアにでかけました。7月23日に発ってハワイ(ハワイ島・オアフ島)に2週間、そこからサモアへ。サモアには約1ヶ月滞在して、9月8日に帰国しました。

 小さな国サモアのなかでも小さい島でマノノ島というのがあります。この島は、ウポル島と、サバイイ島(この二つが国の中心になる島です)の間に挟まれるようにしてある、周囲を徒歩で一時間半ほどでまわれる小島です。 いつものように島一周の散歩していたある日、途中の村で話しかけてくる青年がいました。 彼の名前はパゴパゴといいましたが、パゴパゴがいうには、自分のところの畑にいってココナツを食べないかと。サモアは比較的治安がいいうえ、特にここは小さな島ですから安心していましたし、なによりもパゴパゴの目は澄んでいるように見えたので、僕はひょこひょこついていきました。
 道からそれて入っていったそこは、椰子の木とバナナの木でうっそうとしていました。サモアには蛇もいませんし、もちろんトラやライオンなどもいないことがわかっているから歩けるようなものの、 まあ深いジャングルで、時折そよぐ椰子の葉からもれ落ちる陽の光だけが心のささえに思えました。

 パゴパゴは椰子の木を下から見つくろって、一本の椰子の木に両手両足をまわし、尺取り虫のように体を伸縮させて、ひょいひょいとてっぺんまで登ってしまいました。ラグビーボールほどの実が並んでいるのを、すいかの善し悪しをみるようにとんとんとノックしては、いい具合に熟れたかなと思えるものを足蹴りにして地面におとし、7個ほど落としたところで下に降りてきて、もち歩いている刃渡り70センチほどのナタで太い木の枝を切ってきて、先を鋭利に削り、鋭利な方を上にして地面に突き刺し、今度はそこに椰子の実を突き刺して、その皮をむいたのでした。

椰子の木の上のパゴパゴ
  そうして残った固い実に小さな穴を空け、僕に差し出しました。椰子の実に口をつけてジュースを飲むと、中に空気が入らないものだから飲みにくいのだけれども、ジュースが口の中全体に広がって、乾いた咽の奥まで潤うのが心地よく感じられました。
  飲み終わるとナタの峰で実をわって、白い寒天状の実を食えと、彼が親指でそぐようにして剥がすのを真似て食べました。もちろん美味です。
  ココナツというのはなかなかボリュームのあるもので、一個食べればもう充分なものです。パゴパゴはまた椰子の木に登って椰子の葉の痛んでいないところをとってきて、椰子の葉で篭を編み始めました。手慣れた様子で葉っぱを編んで、またたく間に買い物篭ほどの大きさのものを作り、底にバナナの葉っぱをしいて出来上がりです。 パゴパゴは残りの椰子の実を全部むこうとしましたが、僕は3個だけでじゅうぶんでしたので、3個だけ篭に入れてもらいました。
  パゴパゴは嬉しそうに僕に篭を手渡し、僕は篭を手にしながら、一緒に畑という名のジャングルを出ました。 ジャングルを出ると、さんさんと注がれる太陽の光が痛い南の島でした。彼が帰る村と僕がこれから歩いてゆく方向が逆でしたので、そこで彼とは別れました。すぐに彼の後ろ姿は葉かげに消えてゆきました。
  僕はサンダルに短パン、それにTシャツといういでたちで、椰子の篭を手に歩きました。南の島の太陽がうなじを激しくうちつけ、白い砂の道には、僕の影だけが小さく映っていました。今し方までいたジャングルの中が、なんだかとても懐かしく思えたのでした。そして、パゴパゴがくれた椰子の実を、パゴパゴが椰子の葉で編んでくれた篭に入れて、てくてく歩いているのが、涙が出るほどにたまらなく幸せに感じられたのでした。

篭を編むパゴパゴ

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